池元友樹。
プロサッカー選手。
彼のことを紹介するとき、必ず言うことは「マンガの主人公みたいな選手」だ。
福岡の強豪・東福岡高校で頭角を現し、その後なんとすぐに海外挑戦。
帰国後は地元・北九州のサッカーチーム「ニューウェーブ北九州」に加入。
26試合27ゴール、期限付き移籍先FC岐阜での活躍もあり、Jリーグクラブの柏レイソルに移籍。
この時ニューウェーブ北九州に移籍金を置き土産としたが、このことが後の「ギラヴァンツ北九州」誕生に言葉では表せないほど大きな貢献をする。
Jの舞台では横浜FC時代に7得点を挙げる活躍。
そして地元のクラブは「ギラヴァンツ北九州」と名を変え、J2リーグに参戦。
時を同じくしてギラヴァンツ北九州に入団。
ここでエースとして活躍をする。
その活躍が認められJ1初昇格の松本山雅FCに移籍。
開幕戦でゴールを決める。
その後再びギラヴァンツ北九州に復帰。
そして酸いも甘いも知ることになるが、チームの中心として活躍。
そして、2020シーズンをもって現役引退。
ここまでが簡単な略歴だが、これだけでも彼が北九州に貢献したことの大きさが分かるだろう。
もっと言えば、ギラヴァンツ北九州のサポーターにとっては数字などでは表せない、言葉にできないほど大きな存在だった。
この記事を書く僕は2012年から本格的なギラヴァンツ北九州のサポーターになったので、地域リーグ時代の功績を生で語ることはできない。
それでも、自分が見ていた時代だけでも、本当に大きな存在だった。
彼のキラめきを初めて見たのは2011年、アウェイサガン鳥栖戦。
前年年間一勝しかできなかったチームの躍進。
その中心に彼はいた。
相手のサガン鳥栖は無敗を続け、クラブ初のJ1昇格に王手をかけていた。
そんな状況での一戦。
彼の右足から放たれた一閃のシュートが同点弾になった。
あの試合を生で見ていなければ、もしかしたらサッカーに熱中することはなかったかもしれない。
自分にとって大切な試合の中心に、彼は立っていた。
北九州に引っ越し、本城陸上競技場に通うようになった時にも中心は彼だった。
独特のリズムを持つドリブル。
鋭いシュート。
まさにエースストライカーだった。
活躍が認められ、J1のチームに移籍。
クラブの象徴がなくなるような感覚に襲われた。
それでも初戦・満員の松本山雅サポーターの前でゴールを決めた姿はやっぱりカッコよかった。
翌年、再び北九州に彼は戻ってきた。
J1で活躍できなかったことは悲しかった。
それでも、クラブの象徴が復活した喜びも大きかった。
だが、ここからが地獄の始まりだった。
翌年に新しいスタジアムが完成することに合わせ、クラブの目標はJ1昇格。
この目標にしてもまったく問題ないことをそれまでの成績で表していた。
結果、最下位でJ3降格。
信じられない事態だった。
翌年、J2復帰が大前提のシーズンが始まった。
ホームでは勝てた。
アウェイでは勝てない。
蓋を開ければJ2昇格には程遠かった。
そして地獄の底。
どんなに試合数を重ねても勝てない。
最終的に、J3最下位。
J2にいたクラブとは思えない、あまりにも残酷なシーズンだった。
そこに彼はいた。
チームの中心に。
すでにベテランの域に達していた彼は、本当に辛そうだった。
転機が訪れた。
昇格請負人、小林伸二監督が就任。
若いチームがJ3の舞台で躍動した。
でもその中心には彼がいた。
彼がいなければ、この結果は得られなかっただろう。
そう思わせる活躍だった。
結果、J3優勝。
そして、J2復帰。
J3優勝のシャーレを受け取ったのは、いつしか北九州の顔と呼ばれた彼だった。
そして、2020シーズン。
控えでの出場が多くなった。
それでも出場すれば場の空気を変えるだけの力を持っていた。
チームが苦しい時は先発出場もあり、若手の見本となるようなプレイを見せた。
だからこそ、その知らせが信じられなかった。
現役引退。
もちろん選手人生の佳境に入っていることは感じた。
それでも、今年だとは思わなかった。
彼のプレイを見たい。
そのニュースを見た5分後にはチケットを買った。
当日。
水曜ナイトゲームであり、しかも寒い。
それでも3000人近くの入場者。
それだけ彼が愛されていたという証明だろう。
チケット売り場に並んでも、まだ実感がわかない。
いつもと同じ試合前だった。
試合は2点を先行。
このままいけば出番がくる状況だった。
ゴールの際は11を空に掲げるセレブレーション。
サポーターだけでなく、選手にも愛されていることが伝わってきた。
そして、その姿を見てからだんだんと実感がわいてきた。
そして、その時が。
ホーム側からスタジアム全体に伝わる拍手。
彼がくる、そう理解するのに時間はかからなかった。
池元友樹、現役最後の試合となったピッチに立つ。
ピッチ横に立ったその瞬間から、引退という文字がついに実感を伴って理解できた。
そこから初めての感覚。
この試合が終わってほしくない。
そんな思いが想いの中心になっていった。
そして。
ボールを受けた池元がそのまま蹴り出した瞬間、響いた3度のホイッスル。
池元友樹、現役最後の試合が終わった。
ホーム戦終了セレモニーを挟んでの引退セレモニー。
寒さも厳しい中でも多くの人が残り、彼の選手としての最後の姿を目に焼き付けた。
挨拶や花束贈呈も終わり、場内一周。
彼を捉えるファインダーを覗く視界が揺れていた。
場内一周も終わり、名残惜しそうな様子でピッチをあとにする時、最後にゴール裏に向けて一礼。
その姿が、ピッチ上最後の姿となると考えて再び視界が揺れた。
それでも、その一礼を目に焼き付けた。
池元友樹。
彼の活躍は、北九州にサッカー文化を根付かせる偉人級の役割を果たし、そして次世代に夢を残したとして一生語り継がれるだろう。